道を間違える
おもろい話(マレーシア、クアラルンプール1995年7月)
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楽しい事をメモしておくと人生が楽しくなると言う。
サッカーに関係あることないこと、楽しかったことや面白かったこと、
心打たれたことなどページを繰ってみよう。
道を間違えたモハメッド

「道を間違えました」とモハメッドは静かに何かを
打ち明けるように言った。車はクアラルンプール
の首都高速道路を郊外に向かって走っていた。
モハメッドは小柄で色が黒く鼻ひげをはやしていた
が、生粋の日本人で、関西にある大学を出てすぐに
青年海外協力隊でマレーシアのサバ州で3年間農業
指導をしていた。
その間に現地の学校の先生と知り合い結婚した。相手はかなりのインテリだと聞いていた。
イスラムの人と結婚するに当たってはイスラム教へ改宗する事が必要であった。
本人は多くの日本人と同じく特に何かの宗教を深く信じているわけでもなかったのでイスラム
教になりモハメッドという洗礼名を受けた。コーランも読めるまでに努力した。
しかし根っからの敬虔なイスラムではない彼は時には中華料理やマレーシアの名物バクテー
(骨付きカルビの薬草煮込み)を食べ、奥さんに豚の臭いがすると遠ざけられた。
日本からの出張者が持ってきてくれた即席ラーメンのラベルに豚のエキスが入っていると
書いてあったため、とても楽しみにしてとっておいた物を捨てられたりもした。
日本の総合商社に現地採用で入社したが、当時は日本の本社での採用と現地採用では同じ
日本人でも色々条件が違っていた。
普段は明るいその5つほど年下のモハメッドも、人知れず色々と苦労しているのかと思った。
今までの人生の選択について何か後悔している事が有るのだろうか。
モハメッドは続ける。
「さっきの二叉を左に行かなあかんかったんです。すみません。この環状線をもう一周せな
あきまへん」
なんや!単に道間違えただけやないか。
しんみりして言うこっちゃないやろ!
いらん心配したわ!